水晶体の被ばくは、X線防護用品で低減することができます。
防護メガネ
患者から発する散乱線への盾の役割を果たします。術者の立ち位置に合わせて自在に動かすことができますが、十分な遮へい効果を得るには、使い方のコツを知ることが必要です。
「パノラマシールド」製品ページX線TV装置防護クロス
透視装置を用いた検査・治療の際、装置から発生する散乱線を遮断します。照射野から約40cm離れた位置で、散乱線の約90%をカットすることができます。
「X線TV装置防護クロス NP」製品ページ組み合わせて使えば、遮へい効果はさらに高まります。
防護メガネ・防護板を使用すると、水晶体の被ばく線量を大幅に低減できます。
血管撮影およびIVRにおいて、防護メガネや防護板を使用した実験を行いました。水晶体の被ばく線量低減に、 それぞれどのぐらいの効果を発揮するのか、どのような特性をもっているのかをご紹介します。
◎実験・データ:山梨大学医学部附属病院 診療放射線技師長 坂本肇博士
測定方法
線量測定用の素子を防護メガネの内側と外側に貼付して測定しました。測定に用いた素子は、 TLD(Thermoluminescence Dosimeter)とnanoDot線量計(長瀬ランダウア)の2種類です。
● TLD(Thermoluminescence Dosimeter)
● nanoDot線量計(長瀬ランダウア)
防護メガネの種類による防護能力の違い
防護メガネにはさまざまな種類があり、それぞれの防護能力はレンズの鉛当量と形状に依存します。ここでは代表的な2種類の防護メガネの基礎的性能を評価した実験データを示します。
■ 2つの防護メガネの特徴
防護メガネA:レンズの鉛当量は0.07mmPbと低めですが、そのぶん、軽量で装着しやすいタイプです。レンズは側面まで回り込み、顔にフィットする形状です。
防護メガネB:レンズの鉛当量が0.75mmPbと高く、大きな遮へい効果が得られますが、防護メガネ自体には重量があります。レンズは平たく、顔の側面はカバーしない形状です。
■ 測定結果/鉛当量による遮へい効果の違い
正面方向の遮へい効果は、鉛当量0.07mmPbの防護メガネAが約61%、鉛当量0.75mmPbの防護メガネBが約80%。鉛当量の差がそのまま結果に表れ、防護メガネBのほうが防護能力が高いことがわかりました。
■ 測定結果/レンズの形状による遮へい効果の違い
レンズが顔の横まで回り込んでいる防護メガネAは、側面方向でも正面方向と同等の遮へい効果を示しました。一方、平たいレンズの防護メガネBは、側面方向においては遮へい効果は約38%と防護能力が低いことがわかりました。
平たいレンズの防護メガネは、側面からの散乱線をほとんど防護していないことがわかります。 防護メガネは、レンズの鉛当量と形状による遮へい効果および装着感を考慮して選択することが重要です。
顔の正面と側面の被ばく線量の違い
臨床において、術者はどのぐらいの線量を浴びているのか、装着した防護メガネの正面と側面の線量で比較しました。
■ 測定結果
術者は患者の右側で手技を行うため、体の左側がX線管に近づきます。このため、被ばく線量も体の左側のほうが高くなります。ここでは術者の装着した防護メガネの左側の正面と側面の被ばく線量を比較しました。その結果、術者が手技を行っているときは、正面からも側面からもほぼ同量の線量を被ばくしていることがわかりました。
術者の水晶体は、正面からも側面からも散乱線を浴びています。 その防護には、レンズが側面まで回りこんだ形状の防護メガネが有効だといえます。
臨床での防護メガネの有無による被ばく線量の違い
防護メガネを装着することで、被ばく線量は確実に低減することができます。
ここでは、〈実験1〉の防護メガネAを臨床で使用した場合の線量低減効果を示します。
■ 測定結果
臨床において、1症例あたりの被ばく線量を防護メガネの内側と外側(ともに左側)で比較しました。 その結果、防護メガネの内側の被ばく線量は外側の約50%であることがわかりました。
手技中に術者が防護メガネを装着することで、水晶体への入射線量を約50%カットできることがわかります。防護メガネには、だれにでも簡単に装着することができて、装着している間中、防護効果が得られるというメリットがあります。
■ 補足
防護メガネAの場合、基礎実験における遮へい効果は、〈実験1〉のとおり、約61%です。一方、臨床では、術者の顔がさまざまな方向を向くことから約50%へと下がります。これはどのタイプの防護メガネにも起こることで、防護メガネを選ぶときは、臨床における遮へい効果を調べることが大切といえます。
臨床における防護板の散乱線カット効果
防護板そのものには約95%という高い遮へい効果があります。
ここでは、防護板を臨床で使用した場合の線量低減効果を示します。
■ 測定結果
グラフが示すとおり、臨床では平均で約80%という遮へい効果が得られました。
臨床において、術者は防護板から離れた位置で手技を行うため、基礎実験どおりの防護効果が得られるわけではありません。それでも、実験では約80%という高い遮へい効果が認められ、防護板が散乱線の遮へいに非常に有効であるということがわかります。
■ 補足1
優れた防護効果をもつ防護板ですが、配置する位置により、散乱線の遮へい効果には差が現れます。3枚の写真をご覧ください。(A)の配置なら、術者と防護板、患者と防護板の隙間がともに小さいため、高い遮へい効果が得られます。しかし、(B)のように防護板と術者の距離が離れていたり、(C)のように患者と防護板が離れていたりする場合は遮へい効果が低減します。防護板の十分なメリットを引き出すためには、その特性を知り、上手に使用することが大切です。
■ 補足2
患者被ばくの低減は術者被ばくの低減にもつながります。
装置出力線量が多くなるにつれて、術者の水晶体の被ばく線量も直線的に増加します。術者は、患者の体やX線管から発する散乱線によって被ばくしますので、患者被ばくと術者被ばくには密接な相関関係があります。したがって、不必要な透視や撮影を減らし、患者の被ばく線量を適切にコントロールすることが、術者被ばくの低減にもつながります。
防護メガネ+防護板の併用がベスト。
術者が正しく使えば、臨床で約90%の散乱線のカットを実現。
「医療現場から白内障を根絶したい」。
あるベテラン医師の思いから生まれた防護メガネ。
「最近、防護メガネを使わない若手医師が増えている。これから長い人生を歩んでいくのに、白内障になってしまったらたいへんだ‥‥」。いまから十数年前のこと、千葉県救急医療センターの脳神経外科医・小林繁樹医師はそんな危機感を抱いていました。病院には当然、防護メガネが常備されていますが、そのつけ心地が重く、うっとうしいことが、着用率の上がらない最大の理由になっていたのです。その後、小林医師のご提案をきっかけに開発されたのが、新しい発想の防護メガネです。着用率アップに主眼をおき、防護性能を確保しながらも、従来の製品にはなかった”軽さ”を実現した製品となりました。
参考文献
ICRP Publication 41
ICRP Publication 118
Fujimichi et al. PLoS ONE 9(5): e98154
佐々木洋 臨眼 68(13) 1667-1672 2014
Akahane et al. JJHP 49(3) 145-152 2014
Fujimichi et al. JJHP 48(2) 86-96 2013
Fujimichi et al. JJHP 48(2) 97-103 2013
Fujimichi et al. JJHP 49(3) 131-138 2014